愛してるって言って
『帰ってこない』という言葉で、女を連想させてしまうのはあたしだけだろうか。


目の前でガチャガチャと鍵を開けるのを見ながら、蒼ちゃんから女物の香水の香りが漂ってきていることに気付いた。


もしかして、蒼ちゃんに彼女がいるの?


たった今まで一緒だったの?


そんなことを考えている頭をフルフルと横に振る。


違う。


きっと、職場で隣に座った人の香りが移ったんだ。


それか、誰かとぶつかった拍子に香りがついちゃったんだ。


と、自分に都合のいい理由を考えてしまう。



「すず、入らねーの?」



頭の中が香水のことで占領され過ぎていて、蒼ちゃんが部屋の中へと姿を消していたことに全く気づかなかった。



「は、入るっ!」



そう言って、慌てて部屋の中に足を踏み入れた。
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