愛してるって言って
「ん、ありがとう」



俺がそう言うと、父さんは瞳を細めながら母さんに視線を移す。


そのまま愛しそうに見つめている瞳を見ていたら、俺の脳内に突然すずの顔が浮かんできた。



「じゃあ俺、帰るわ」


「え!」



涙でぐちゃぐちゃな顔を俺の方に向けてきた母さんは、



「明日休みなんだから泊まっていけばいいでしょ」



と涙声で訴えてくる。


最近は俺のアパートですずと過ごすことが増えたせいか、ここに来るのが減ってしまった。


もしかしたら母さんは寂しいのかもしれないけれど、目の前でそんなに熱い抱擁を見せられてしまったら、俺だってすずに会いたくなるだろ。



「ごめん、また来るから」



母さんは不満そうな顔をしていたけれど、どこか清々しい表情をしていて。


今日親父の話ができてよかった、と心からそう思った。
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