俺は、お前がいいんだよ。
「呼んだよな?」
「まあ、一応…。男の子を名前で呼んだことないから、ちょっと練習してみただけ。」
「そっか。早速…呼んでくれると思わなかったからビックリした。」
「だって、拒否禁止だろうと思ったから…。いっ、今すぐじゃなくていいなら、まだ“瀬ノ内君”のままでいい?」
ぎこちなく訊ねると、陽希は首を横に振る。
そして、なんの躊躇いもなく私の手を握った。
「いや、“陽希”でいい。」
少し照れくささを含んだ穏やかな声。
柔らかな笑顔にドクンと鼓動が勢いよく波打った。
「わ、分かったから…手を離してよ。このまま学校へ行くのは、ちょっと…。」
同じ高校の生徒に見られるのは、かなり恥ずかしいものがある。
現に、さっきから電車通の生徒が何人も私たちのことをチラチラ見ていってるし…。
「手は…離さない。」
「どうして!?」
「離したくないから。」
フッと笑った陽希は、私の手を引いて歩き出した。