俺は、お前がいいんだよ。
「伊織、傘とハンカチ…俺に貸してくれて、ありがとな。」
「えっ…」
「もう一度、言いたかったから。」
「な、何度も言ってもらわなくても…いいです。」
あぁ、また私…素っ気ないことを。
そこは素直に“どういたしまして”って答えれば済むことでしょ…。
早速…心の中で後悔していると、瀬ノ内君はフッと笑った。
「あのさ、伊織。」
「は、はい。」
「俺、このお礼をしたいんだけど…何がいい?」
「お礼…?」
ひねくれてる私に呆れてるのかと思いきや、あの時のお礼がしたいだなんて……。
予想外な言葉に、拍子抜けしてしまった。
「別に、お礼は…いりません。そこまでのことをしたわけじゃありませんから…。」
「伊織にとっては…そうかもしれねぇけど、俺には…お礼をしたいぐらい嬉しい出来事だったんだ…。」
「だ、だけど……」
「まあ、急に聞かれても思い浮かばないだろうし、答えは…明日でいいや。じゃあ、またな。」
「えっ、ちょっと…!!」
足早に屋上から出て行く瀬ノ内君を見ながら、私は瞬きを繰り返した。