俺は、お前がいいんだよ。

「もしかして、この前…俺が腕時計を無くしたから…」


「うん……。それで、新しい腕時計をプレゼントにしようと思ったの…。」


それは、ちょうどテスト期間中のこと。


朝の満員列車から降りる際に、陽希が腕時計を落としてしまったのだ。


あの日は、いつもよりも電車が混みあっていて、桜瀬駅で降りる人も結構多かった。


陽希は、下車する人ごみの中で、何かに引っかかったような感覚があったらしい。


電車内に落としたんだろう…と言うことで、駅の窓口に相談したけど、それ以降…腕時計が見つかったという連絡も無い…。


それで、新しい腕時計を買おうかな…と一昨日の金曜日に話していたのを聞いて、時計をプレゼントすることに決めたんだ。


「昨日、色んなお店を回って…陽希に似合いそうな時計を探したんだけど、も…もしも気に入らなかったら、使わなくてもいいから…」


慌てて言葉をつけ加えると、陽希は箱から腕時計を取り出す。


そして、腕にはめた。


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