俺は、お前がいいんだよ。

「初恋……?」


「ああ。」


小さく頷く瀬ノ内君。


心なしか頬を赤く染めながら、真剣な表情で私を見つめた。



「俺、伊織が好きだ。」


吹き抜けた潮風と共に、ドクンッと心臓が波打つ。


驚きのあまり、目を見開いてしまった。


「う、うそ……」


「この状況で嘘なんか言うはずねぇだろ。全て、本当のこと。」


瀬ノ内君はフワッと口元を緩める。


「あの雨の日、傘とハンカチを差し出してくれた優しい伊織に恋したんだ。鼓動が勢いよく高鳴った、あの瞬間は…今でも忘れない。」


「…………。」


「それ以来、気にしてなかった見た目を気にするようになった。最低限の身だしなみぐらい、ちゃんとしておかないと…って思ったんだ。もしも…この先、伊織と再会することがあったら、その時に少しでもいい印象を持ってもらいたいと思ったから。」


そっか…。


“俺を変えたのは、伊織だから”


以前、瀬ノ内君が話していたっけ…。


瀬ノ内君の見た目がガラッと変わったことに、どうして私が関係してるのか、疑問に思ってたけど……


その答えは“恋”だったんだ…。


< 96 / 350 >

この作品をシェア

pagetop