真夏の夜のツンデレラ〜今夜は私を愛して〜


人気も少なくなった神社の石段に座って

りんご飴を舐めていた。



「ねえ、亜星…

今朝はごめんなさいね」

「…何が?」

「あなたを引き止めてしまって…」

「いいよ。そんなこと」


そんなこと。

そんな風に言ってくれるのはきっと亜星が優しいからだろう。


「私…昔、本当に好きだった人がいたの。」

「…うん。さっき話してた人だよね?」

その言葉に…私は小さく頷いた。



あの日、光太は奥さんを迎えに行く電車に乗って

…帰らぬ人となった。


電車の脱線事故だった。


死者50数名、負傷者170数名の大きな事故だった。

光太はその電車に乗っていた。

落ち着いた頃、また来るねって…

柑奈は俺の特別だからって…

奥さんのもとへと行ってしまう彼が

私は切なくて

苦しかった。

それが本当の気持ちだった。

行かないでって

私だけ見てって…

そんな事を言うには出会いが遅すぎた。


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