優しい時刻
「日樹!!!!」
「お前、声デカいよ」
慌てて口元に手をあて周りを見る。みんなが注目してた。小さくなって、頭を下げる。
「なんで図書館なんかにいるのよッ」
「別に居たってかまわないだろうが」
本棚越しに話していた日樹が私のいる方へ回ってきた。
「ふうん。で、今こんな勉強してんだな」
片付けてた本の山から一冊手に取り、にやりと笑った。
―江戸の春画―
「ち、違うわよ。私じゃなくて別の学科の友達よ」
慌てて違う本を日樹に手渡す。
―栄養学辞典―
「ああ、佑美は栄養士希望だったな。だったら春画が趣味か…」
持ってた本で、小さく叩く。
アイテッ
「いい加減にしなさいよね。それより何してるの?」
「佑美に用事があってさ」
「何、つけてきたの?」
「バカ言え、佑美がバイトだろうから夜まで時間つぶそうと思って」
「…お金ならないわよ。私だってカツカツでやってんだから」
「なぁ、もう帰るんだろ?腹減った」
また私におごらせる気じゃないでしょうね……なんて思いながら日樹と図書館を出る。
まっすぐバス停に向かう私を日樹がグッと引き寄せた。
えッ
「こっち…」