優しい時刻
《駐輪場》

日樹について行くと自慢気に見せられたのは。

「じゃーん!送ってやるよ」


…?

「え。どうしたの?このバイク。用事ってこれ?」
「いや。オレさ、今部屋借りる金がなくてさ」

だから…? 

「アパートの金が出来るまで、佑美のとこに置いてくれないかな?」




ふ~ん

上の空で聞いてたからビックリ

え、うち??

「と、友達のとこは?!」

「ちょっとな…」そういうと、頭に手をやり苦笑い。そして私を拝む。

「頼む!!」



またあ?



日樹には変な癖がある。
時計を見ると<解体修理>をしたくなる妙な癖。それが困ったことに、壊れてない物までバラすからみんな嫌がる。そして全部戻せるかというと、稀に無理なことがあるのよね。この分だと、友達の家でやったんだろうな…



「ほら、乗れ!」
そう言われヘルメットを受ける。

「ねえ、このバイクどうしたの?」

「こっちで働くにも足がないとな…先輩が新しいの買ったから格安で譲ってくれた」

「じゃ先輩の家に泊めて貰ったらよかったのに!」

「先輩にもいろいろあるだろう?」なんていいながら、私にお構い無しにバイクのエンジンをかけていた。


私には何もないいって言う訳?

いろいろあるんだから・・・アオくんのことだって。




あ。





そうだよ!アオくん、どうしよう。

「ごめん日樹。今ね、同居人いるから。泊めるの無理だった」

「女の子なら、大歓迎!」

「いや、日樹が良くてもね…それに違うし」
エンジンをかけてた日樹が驚いて振り返る。

「うそつけ!」そう言うと、後ろに乗れ。と私をバイクにうながした。


やばい。

本当に私の家にくる気なんだ。



「ちょっと待って!じゃ電話してみ・・・」といいかけて気がついた。


私の家に固定電話なんかなかったんだ。

「佑美。んじゃ、その物好きな男に挨拶しておくから。今日、飯食わせてよ」

バイクのエンジンが図書館の駐輪場に響く。





もう・・・なるようになれッ





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