タイムトラベラー・キス

さっきまで、竜見くんの名前なんて一度も出てこなかったのに。
突然そんなことを言われて、全く反応できないでいる。

私を見下ろす野々村くんの顔は全く笑っていなかった。
怒っているような、悲しんでいるような。
感情が読み取れないその顔がなぜかキレイに見えた。


「じゃあな」


私は何も言えないまま、彼の背中を目で追っていた。



……どういうつもりでそんなことを言ったのだろうか。
私と竜見くんじゃ釣り合わないってこと?

それとも……






『雫ちゃんは純粋だから傷つけるなってよく言われてた……』



ふと、頭の中で竜見くんの声が聞こえた。
……昨日、竜見くんの家でも一瞬見えたあの車の中の映像も。


野々村くんは、この頃から私のことを気にかけてくれていた……?

どうしてそれを、私は知っているのだろう。
どのタイミングで、竜見くんから聞いていた??


思い出せないけど、私は……
大切なことを忘れているような気がした。
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