タイムトラベラー・キス
「しっかりつかまれよ」
「う、うん……」
野々村くんの腰に手を回す。がっちりとした身体はとてもあったかい。
普通ならドキドキするはずなのに、不思議と落ち着いていく。
この体が本当に懐かしい。
未来では当たり前に触れていたから、気づかなかったんだね。
「お前の家、どの辺だっけ」
怖くない程度の速さで進む自転車。
夜風は少し肌寒いけど、野々村くんの体温がホッカイロ代わりになる。
「えっと、あの駅のところなんだけど……結構遠くない?」
「俺んちはもう一駅隣だから、帰り道だから大丈夫」
……私たちの家が一駅隣だっていうのも知っているけれど、ここでは知らない振りがいいかな。
「へぇ、毎日結構な距離を自転車で走っているんだね」
「まぁ、体作りもかねてって感じだな。慣れると大したことねぇけど。……それにしても、こんな風に普通に話すのって初めてじゃね?」
「……ふふ、確かにね。意外と普通に話せるものだね」