タイムトラベラー・キス

不思議。
まだ付き合ってもいないのに、二人を包む空気を心地よく思うなんて。


「野々村くんには、いろいろとお礼しないとね。教科書も借りたし、今日のこともあるし」


「お礼なんて別にいいよ。……でも、強いていうなら……」


「何?」


「いや、やっぱり何でもない」


自転車の後ろからでは彼の表情が全く読めなくて、どうして途中で話すのをやめたのか分からない。
途中で話すのを止めるなんて、野々村くんらしくないな。


「何かあるなら言ってよ」


「んーと……実は、観に行きたい映画があるんだけど、友達とは一緒に行きにくい内容のやつで……」


ここまで聞いて、さっき彼が話を止めた理由が分かった。
私をデートに誘おうとしているらしい。普通だったら胸がキュンとするんだろうけど、27歳の私はやはり”可愛い”なって思ってしまう。

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