タイムトラベラー・キス
「ちなみに、どんな内容なの?」
「ゆ、夢のシロクマ探検隊ってやつ……」
「ああ、それね!いいじゃん、観に行こうよ」
私がそう答えると、野々村くんはゆっくりと自転車を止め、後ろを向いた。
暗くても彼が目を丸くして驚いているのは分かった。
「お前、驚かないの?俺が子供向けアニメを見たいって言ったの」
「別に?私もシロクマシリーズ大好きだし!」
……とは言ったものの、野々村くんの好みは熟知しているから驚かなかっただけだった。
ここはやっぱり驚いたほうがよかったのだろうか。もう遅いけど。
ちょっとした沈黙の後、野々村くんは顔をくしゃっとさせて笑った。
「はは、お前ってやっぱすげーわ。感動した!」
こんなに笑顔の野々村くん(17歳)を見たのは初めてかもしれない。
バカにされなかったのが嬉しかったのだろうか。
……ちょっと反則な気もするけど、彼が喜んでいるのなら何でもいいや、と思った。