タイムトラベラー・キス
私が野々村くんの好みをすべて知っているということは、高校生の野々村くんは知らないんだよね。
裏ワザ使って彼を喜ばせているみたいで、少しだけ申し訳ないけど、まぁいいか。


シアター内は、私たち含めて10人ほどしかいなかった。そして、予想通り子供が多い。
当然だよね、子供向けのアニメだもの。でも、二人なら恥ずかしくはないよね。


……夢のシロクマ探検隊は、主人公のシロクマ君が幻の宝を求めて、相棒のハリネズミさんと一緒に旅をするという物語だった。動物たちの動きがコミカルで愛らしく、笑みがこぼれてしまう。
時々シリアスだったり、感動する話も組み込まれていて、アラサーの私ですらうっすら涙を浮かべるほどだった。


感動のシーンの時、さりげなく野々村くんのほうを見てみると、彼の目もうるんでいるのが分かった。
純粋な彼の姿を見て、胸がキュンとする。



そうだった。

私は、彼の純粋なところがとても好きだった。
純粋に私を想ってくれること、どんな作品にも感情移入できること。
どんな場所でも無邪気に楽しんで、どんなものでもおいしく食べてくれる。

その彼の行動の一つ一つが愛おしくて、幸せで満たされる。


……それが当たり前すぎて、いつの間にか幸せだって思えなくなってたんだ。



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