タイムトラベラー・キス

「えっ……」


「先輩にもああいう風に宣言したし、お前にまた迷惑かけたくないから、もう諦めるよ」


野々村くんはそう言って立ち上がり、くるりと私に背中を向け、校舎に向かって歩きだす。


「野々村くん!」


背中に向かって彼の名前を呼ぶと、彼は立ち止って後ろを振り向いた。


「この前の映画……すげー楽しかった。ありがとう」


少し寂しそうで、でもにっこりと笑っていた彼の顔を、私は二度と忘れないと思う。




私は体に力が入らなくて、しばらく座り込んだままだった。
どうしよう。野々村くんが私のことを諦める……?
それって、いつかは違う女の子を好きになって、違う人と付き合う未来もあるということ?



先輩は結局手帳を持ったまま帰って行ってしまった。
手帳もなく、野々村くんからもああ言われてしまった。



もしかして今日は、未来が変わる分岐点だったのだろうか。
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