タイムトラベラー・キス

――そして、あっという間に日々は過ぎていき、とうとう運命の日となる。


「……よし、これで完成かな」

「ありがとう、おかあさん」


学校から一旦家に戻り、お母さんに浴衣の着付けをしてもらっていた。

桃色や薄紫で描かれた朝顔の浴衣は、とてもさわやかな印象で、きっと野々村くんも気に入ってくれると思う。
髪もゆるくひとつにまとめ、花の飾りをつけてもらった。



「それにしても浴衣を着て祭りに行くなんて、珍しいね。デート?」


「うん、とっても素敵な人なんだ。いつかお母さんにも紹介するね」


「わー、楽しみ。まずはお父さんがいない日に連れてきてね。お父さんヤキモチ焼くから」


着付けを終え、夕食の支度のためにキッチンに向かう母の背中を見守る。
まだ若くて、元気いっぱいのお母さんとも今日でお別れだ。

……どうか、元気で。
10年後、お母さんとは離れて生活するけど、ずっと大切に想ってるよ。
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