タイムトラベラー・キス

……過去に戻った私は、なぜか浴衣を着ていた。
どうやら野々村くんと七夕祭りに来ていたようだ。

私たちは、夜空に打ち上げ花火が輝くまでずっとベンチに座っていた。
ここは快適に花火が見れる特等席だったようだ。



「そういえば俺、お前に渡したいものがあった」


「えっ、何?」


「気に入るかはわかんねーけど、はい」


野々村くんは私に、赤色の包装紙に包まれた何かを渡してきた。
本くらいのサイズのそれを、包装紙が破れないようにきれいに開ける。



「あっ……手帳だ」


包装紙に包まれていたのは、オレンジ色の皮製の手帳だった。
でも、どうして野々村くんは、手帳を私に渡したのだろうか。


「この前、先輩にからまれていたとき、手帳を投げつけられそうになってただろ。そんな嫌な思い出のある手帳はもう使いたくないかなって思って……あと、この手帳を、お、俺との思い出でいっぱい埋められたらなって思ってさ」


「……ありがとう。いっぱい埋めよう。二人の思い出を」
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