タイムトラベラー・キス
「野々村……」と言いかけて口をつぐみ、「雪、休んでてって言ったのに」と言い直した。


野々村は私がみじん切りにした玉ねぎを炒め始めている。
玉ねぎのいい匂いがキッチン中に広がる。


「お姫様がお疲れなのに黙って見てるわけにはいかないだろ」


野々村は顔を私に向けることなく。
料理を続けながら、さらりとそんな恥ずかしくなるセリフを言う。

あまりに自然に”お姫様”なんて言ってるけど。
普段からそんな会話してるの……?


「あ、ありがとう。じゃあ私はサラダでも作るね」


冷蔵庫に野菜を取りに行く振りをして、真っ赤になった顔を冷風で冷まそうとする。
いちいち照れてどうする、私。
今の私は、野々村と婚約して同棲しているんだから。
優しい言葉や気遣いを自然に受け止めないといけないんだ。
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