殺戮都市~バベル~
「うぐっ!!」


スティレットでは届かなかった沼沢までの距離。


それを埋めてくれたのは……日本刀の鞘だった。


先端の金属部が沼沢のこめかみに直撃したのを、手に加わる反発力で実感して……俺は、力いっぱい鞘を振り抜いた。


鞘に弾かれて、叩き付けられるように地面に倒れ込んだ沼沢。


何が起こったのかわからない様子で、慌てて顔を俺の方に向ける。


答えは簡単だ。


日本刀もスティレットも、沼沢の鎖でさえも、僅かな光を反射してギラギラと輝いていた。


それは、夜が明けないこの街では、重要な目印となるけれど……黒塗りの日本刀の鞘は、闇に溶けて反応が出来ない。


ただそれだけだったけど……俺自身、一度も使った事がない戦法は、思いの外上手く行ったようだ。


予想もしていなかった一撃に、沼沢も立ち上がるのが困難な様子で。


片膝を付いたまま、鎖を右手にも持って、構えたのだ。


「まさか……そんな物で。油断した」


勝負は、思いも寄らない所で、思いも寄らない方法で決する。


日本刀の先端を沼沢に向けたまま、攻撃に備えてジリジリと近付いた。


俺と沼沢の距離……約2メートル。


飛び込んで斬り掛かるが速いか、鎖分銅が飛んで来るが速いか。


最後の一撃の勝負だった。
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