殺戮都市~バベル~
だけど、どうして狩野は最初からそう言わなかったんだろう。


仲間を助けたいなら助けたいで、はっきり言えば良かったのに。


「……ははーん、そう言う事か。俺は女を信じない。だけど、そんな顔をされちゃあ、信じたいと思うじゃないか」


フフッと笑って、黒井は俺達に背中を向けた。


そんな顔?


一体どんな顔をしてるのだろう?


黒井を納得させるほどだ、きっと一点の曇りもない、力強い眼差しに違いない。


そう思って、そっと回り込んで狩野の顔を覗き込んでみると……。










潤んだ瞳、恥ずかしそうに両方の頬に手を当てていた。


こ、これは……もしや、恋する乙女と言うやつか!


そうか……狩野は、順一、名鳥順一が好きだと言うのか。


「な、なんだ……そういう事なら最初に言えば良かったのに」


「あんたバカなの!?考えてもみなさいよ。この先、もしもあんた達が順一さんと会う事があったら、絶対に明ちゃんの事を話すでしょ!?」


真冬はどうしてこんなに怒ってるんだ?


そう言われなければ考えもしなかった事だ。


「いや、俺は人の色恋沙汰に興味はないんだけど」


「あ、お、俺もそんな事を気にしてられないんで……」


黒井も俺も、真冬の言葉に首を横に振った。
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