殺戮都市~バベル~
気付かれないように、少し距離を置いて後をつける。


あの男が誰かは思い出せないけど、ここで見失ったら絶対に後悔してしまうだろう。


なぜかその想いだけがあった。


道幅が広くなり、人通りも少し増えた道。


男はその道の脇にある民家に入って行った。


……まさかの民家か。


ビルだったら入って見付かっても、なんとでも言い訳が出来るけど、一戸建ての民家だとそういうわけにもいかないよなあ。


まあ、見付からないようにすれば良いだけか。


庭がある民家、塀もあるし、様子を伺っていても通行人にはおかしいと思われないだろう。


まあ、こんな街にいるんだ、こんな事くらいで騒ぐやつもいないだろう。


素早く塀の内側に回り込んで、民家の外壁に沿って歩き出した。


何も、中に踏み込もうってわけじゃない。


あの男が何者で、なぜ俺が気になっているのか知りたいだけだ。


息を殺して近付いた窓。


そこから……話し声が聞こえる。







「……あの子、今日も戻って来ないね。死んではいないみたいだけど、どこに行ったんだろう?」


「さあな、あの日から少しおかしかったからな。それに、あいつは戦いに向いていない。正直、一緒にいるのも限界を感じていた所だったから、丁度良かっただろ」
< 601 / 1,451 >

この作品をシェア

pagetop