眠りにつくその日まで
「絶対、細菌兵器だよ。」
夕食が終わり、テレビを見てソファでダラついていると、夏子が熱心な様子で私にそう言ってきた。
「え?なんの話?」
「今流行ってる風邪だよ!うちのクラスの男子が言ってたの!アメリカかロシアか中国か韓国か、とにかく外国の軍の細菌兵器だって!」
思わず、ぽかんとしてしまう。
真面目にそんなことを考えるなんて、中学生らしいな。
……でも、私が探していた答えはそれなのかも知れない。
熱心に検索をしていたあの時、そんなことを探していたのかもしれない。
そうだとすると、私もなかなかの妄想家だなと、自分に呆れる。
「フリーメーソンとかそう言う陰謀も絡んでるって言うんでしょ?」
私は自戒をこめて嘲笑気味に言う。
「そう!!さすがお姉ちゃん!!!」
夏子は目を輝かせながら食いついてきた。
「…何かあるとすぐ何かのせいにしたくなるものだよね人は…。
今流行ってるのはただの風邪だよ。咳が長引くタイプのね。」
私は自分の事は棚にあげて、上から目線でそんな言葉を吐く。
「えー、つまんなーい。」
「つまるつまらないでそんなこと言わないの。」
はーい、と夏子はしぶしぶ自室へと帰っていった。
細菌兵器。
そんなことあるわけ無い。
それは、SFの世界の話。
私は眠りにつくまで、色々なことを考えてしまった。
妄想の果ては、ガスマスクをした自衛隊員が地下鉄を消毒している様子だった。
それはボンヤリとしていて、やっぱり空想でしかないと思った。