今しかない、この瞬間を
だけど、今日もちょっぴり嬉しい誤算があった。

彼は朱美さんしか見ていないのかと思ったら、そうじゃなかった。


子供たちを手伝いながら、先週の夜の出来事について淵江コーチと談笑していると、生徒の母親と話しているはずの彼と、何度かチラチラ目が合った。

それって、少なからず、私を気にしてくれてるってことだよね?

朱美さんもいるのに、わざわざ私をチラ見するってことは、やっぱり面白くはないんだろうな。

この一週間、お互い、その話題には触れて来なかっただけに、ほんの小さな嫉妬に、喜びもひとしおだ。


あの日から今日までの間にも、彼と一緒に帰った日はあった。

でも、その時も、敢えて、私はその話題を避けていた。


何故なら、彼の反応を見てみたい気もするけど、そこで思ったよりリアクションがなかったら寂しいし、やましくはないけど、何となく後ろめたい。

別に私は彼のものでも何でもないんだから、考えたら、おかしな話だ。


彼からももちろん、その話題を振って来ることはなかったから、実はそんなに気にしてないのかなとも思っていた。

だけど、今の様子からすると、私がライバルの多そうな淵江コーチを狙ってるって勘違いして、多少なりとも心配してくれてるのかな.......


そんな都合の良いハッピーな妄想を巡らせながら、子供たちをバスまで送り、いつものように手を振って見送った。

大きな双葉の描かれた真っ赤なバスの窓から、私が見えなくなるまで手を振ってくれている子がいて、思わず笑顔になる。

こういう何気ないふれあいがあるから、この仕事って楽しい。
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