今しかない、この瞬間を
「小坂あかねさん。」


いい気分でフロントに戻ろうと思ったら、背中の方から、私を呼び止める声がした。

えっ? でも、この声って確か.......

朱美さんの声、だよね?


「そのままでいいから、聞いてくれる?」

「.......はい。」


もしかして、ビビッて私がすぐに振り返れないのを悟られた?

てか、いきなり何なの?

顔を合わせない方が言い易いようなディープな話?


二人が本当はどんな関係なのか、私は自分の想像の中でしか知らない。

なのに、朱美さんと一対一できちんと話をするなんて、まだちょっと早いような気がする。


この前は私が一方的にダメージを与えて逃げちゃったから、何か仕返しでもされるのかな。

私が立ち直れなくなるようなエピソードでも披露するとか?


音が聞こえちゃいそうなくらい心臓が高鳴っている。

これから、一体、何を言われるんだろう.......


「ごめんね。今まで邪魔して。」

「.......。」

「でも、私、もうすぐいなくなるから、安心して。」

「.......えっ?」


え~っ!? ちょ、ちょっと待って!?

それはどういう意味なの?


だって、いなくなるって、消えるってことでしょ?

だいたい、なんで、そんなこと、今、私に言うの?

全然わかんないんですけど。

どう反応すればいいの~!?


「私ね、子供はいるけど、旦那さんはいないの。」

「えっ?」

「だから、私もあなたが羨ましいのよ。これからまだ自由に人生を決められるあなたが。」

「.......。」


そう、だったの.......?

じゃあ、二人の関係は「不倫」じゃなかったってこと?

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