今しかない、この瞬間を
なら、堂々としていればいいじゃない。

あんなに仲が良さそうにしてたのに、どうしてそんなにあっさり離れられるの?


「私と彼は、寂しい時、傷を埋め合ってただけなの。今まで何度も彼に助けてもらったわ。」

「.......。」

「だけどね、彼はこのまま私といたら、幸せになれない。」

「そっ、そんなことないんじゃないですか?」

「ううん、無理。だって、私たちは、多分、あなたが思ってるような関係じゃないもの。」

「.......。」

「このことは、まだ彼にも言ってないの。」

「え?」

「でも、もう決めたから。」

「.......。」

「彼はもう私がいなくても大丈夫。だから、私もしっかりしなくちゃ。」

「でも........。」

「彼には、幸せになってほしいの。あなたなら、きっとできるでしょ?」

「えっ? 朱美、さん.......?」


驚いて思わず振り返ると、彼が私だけにくれるのと同じ、穏やかで優しい笑顔がそこにあった。

そう言えば、あんなに嫌っていたはずなのに、嫌味のない柔らかな語り口に、いつの間にか、素直に聞き入っていた。

悔しいけど、彼女から彼と同じ、思いやりに溢れたオーラを感じた。

だから、二人は無意識のうちに惹かれ合ってたのかもって思っちゃうくらい。


何にせよ、わかるようなわからないような、今の話をすぐに理解するのは難しい。

でも、朱美さんは本当にいなくなっちゃうのかな。

それに、私ならできるって、急に言われても.......


陽成くんのそばへ走って行く、朱美さんの背中を見ながら考えた。

どこまで信じて良いのかわからないけど、これは多分、私にとって大きな転機だ。


私はこれからどうすればいいんだろう。

もしかしたら、今、この瞬間から、気付かぬうちに何かが変わり始めているのかもしれない。

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