今しかない、この瞬間を
*:.。. 9. 幸せは待っててくれないから
< ─── side 光汰 >
*:.。. 9.
大きなベッドの真っ白いリネンの中で、生まれたままの姿の朱美さんを抱きしめる。
特に決めた訳じゃないけど、いつの間にかそうなって、平日の休みの昼間は、いつもそんな風にして過ごしている。
陽成が帰って来るまでの短いひとときだけど、朱美さんを抱きしめていると、ホッとする。
自分の中にポッカリと空いた穴が、自然と埋まって行くような気がして、とても満たされた気持ちになる。
だから、この時間は俺にとっては大切な時間。
いろんなことがリセットされて行くような、一人じゃないって安心するような、朱美さんは何とも言えない不思議な感覚を俺にくれる。
多分、それは、俺たちには共通点があるから。
一人で抱えるには大きすぎる、不安や寂しさを味わったことがある者同士だからだと思う。
言葉で表すには難し過ぎて、人に理解してもらうには複雑過ぎる。
そんな感情を隠して生きていると、時には辛くてたまらないこともある。
だから、黙っていても分かり合える相手と惹かれ合う。
足りない部分を補い合うことで、生きていける。
彼女と俺の関係は、恐らくそんな間柄だ。
誰よりも大切で、誰よりも一緒にいたいと思うけど、愛しているのかどうかはわからない。
もちろん好きだと思うけど、それが恋愛感情かどうか、自信は持てない。
誰かに話したところで、この話もまた理解不能に決まっている。
生徒の母親だというだけで、好奇の目を向けられるのもわかっている。
それゆえに、これは秘密の関係。
お互いに癒されることを目的としているんだから、それでいい。