今しかない、この瞬間を
気軽に話しかけてもらえたのは、嬉しい。

昨日の帰りのことまで、気にかけてくれたのは、もっと嬉しい。


だけど、何となく変な気持ち。

圧倒されちゃうくらい話が上手というか、自然と話し易い雰囲気に持って行くというか、流れるようにスラスラ会話できちゃうっていうか.......

何だっけ? これって、何かに似ている。

絶対、出会ったことのある感覚に似ている。


あっ、わかった!!

これって、ナンパじゃん!?

こっちが考える暇もないくらい、どんどん話掛けて、盛り上げて、イイ気持ちにしといて、誘い出すみたいな?


うっわ~、気が付かない方が良かった。

これじゃ、加納さんの言ってた通りじゃん。

ってことは、こっちがホントの顔?

だったら、昨日の落ち着き払った余裕のあるカッコ良さは何だったの?


頭の中が、再び、混乱し始める。

私の中で出来上がっていた王子様のイメージが、徐々に崩れて行く。

だからと言って、好きだと思う気持ちが完全に消え去った訳じゃないけど、期待が大きかっただけに、ほんのり失望感が湧いて来る。


「俺、週5で、コーチ入ってるから、これからよろしくね。」

「あっ、うん。こちらこそ。」

「遅番入るようになったら、一緒に帰ろうよ。」

「へっ?」

「だって、家、すぐ、近くなんでしょ? また変な奴に会ったら、危ないし。」

「あぁ、うん。そうか、そうだね。」

「じゃあ、研修、二日目、頑張れよ。」

「うん、ありがとう。」
< 20 / 148 >

この作品をシェア

pagetop