今しかない、この瞬間を
だけど、顔を上げた彼は、いつも通りの柔らかな笑顔を浮かべていた。

っていうことは、機嫌が悪い訳じゃないんだよね.......?


「遅くなったから、お腹空いたでしょ? どっかでご飯食べて帰らない?」

「あっ、ごめん。待たせ過ぎちゃったよね?」

「あぁ、ううん。そんなの全然いいんだけど、せっかく近所に住んでるんだから、早くあかねちゃんと仲良くなりたいと思って。」

「えっ、あ、じゃあ。私も、上山コーチと、もっと話したいなって思ってたから.......。」

「マジ? やった。じゃあ、何、食べようか? あかねちゃんも考えてよ。」

「うん。」


軽いノリも、どこかヤンチャな雰囲気も通常運転のようだ。

良かった。 安心した。

一緒に帰るのも初めてなら、彼と地下鉄に乗るのも、あれ以来、初なんだもん。

やっぱり楽しい気持ちで過ごしたい。


その上、最初からご飯に誘われちゃうなんて、嬉し過ぎる予定外。

誰にでもそう言ってるんだろうなって思えるような、かなり気軽に誘われちゃった感が否めなくもないけど、こういうキャラなんだから、そこは仕方ない。

まずは仲良くなることが先決だ。


駅に着く前から、仕事の疲れも吹き飛ぶくらい、気分は盛り上がっている。

ワクワク感で、今にもはち切れそう。

だけど、不思議なことに、胸が苦しくなるようなドキドキを感じていたのは最初だけ。

あんなに待ち焦がれていたはずなのに、二人きりでいても、自分で驚くほど落ち着いていられる。


それはきっと彼のおかげ。

あまり中身の無い会話が多いのもあるけど、初めてなのに、面白いようにポンポンと会話が弾む。

流れるように言葉が出て来るから、ドキドキよりも「楽しい」が先に来る。
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