今しかない、この瞬間を
次の日、出勤する頃には、そんなことはすっかり忘れていた。

頭の中は、今日の帰りのことでいっぱい。

だって、初めて二人きりで飲みに行くんだから。


朝から、ウキウキする気持ちとドキドキする気持ちが半分ずつくらい。

それから、この前のことを知りたい気持ちと知るのが怖い気持ちも半分ずつくらい。

さすがに朱美さんとの関係を詳しく質問する勇気はないけど、彼が「好きな人」についてどう思っているのかくらいは聞けたらいいんだけな........

とは思ってしまう。


でも、焦るつもりはない。

今日、下手なことをしなければ、今後もこういう機会があるかもしれない。

せっかくこのポジションにつけているんだから、ゆっくり親しくなって、少しずつ本音を話してくれるようになればいい。

その方が私にも、何を聞いても耐えられるような免疫がだんだんできて行くだろうから。


今日は初回なんだからガッつかない。

最寄りの駅まで一緒に帰ってから、そう心に決め、彼が何気なく選んだ洋風居酒屋に入った。


さすが合コン慣れしてるチャラ男くんだ。

適当に選んた割にお店のチョイスも良いし、注文が運ばれて来るまでの段取りに無駄がない。

飲むペースも早いし、どうでもいい話で盛り上げるのも上手い。

噂通り、遊び慣れているのは間違いなさそうだ。


だけど、嬉しい発見もある。

わかってるつもりでも、彼には知らない顔がまだまだたくさんあるみたい。

何気ない仕草や、いつもよりも楽しそうな表情。

どれをとっても、何だか可愛く見えて、いちいちキュンとしちゃってる私がいる。
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