今しかない、この瞬間を
すぐそばで彼に顔を覗き込まれているドキドキ感と、どこまで答えていいのか葛藤する心。

一度にこの両方と戦えるほど、私は器用じゃない。


できれば、早くこの質問から逃れたい。

このままでいたら、緊張し過ぎて具合が悪くなりそうだ。

もういい。言っちゃおう!!

彼なら、きっとわかってくれるよね.......?


「私ね、『恋人』って、ピンチの時には助けてくれたり、全力で守ってくれたりするものだと思ってたの。なのに、彼は嫉妬に狂ったお局に私が集中攻撃受けてるの知ってて、ずっと放置だったし、挙句の果てに、知らん顔してその天敵とデキちゃってた。守ってくれるって信じてた人に裏切られたショックって、想像以上に大きくて.......。」

「なるほど。」

「でも、もういいの。とっくに終わったことだし、忘れちゃえば済むことだもん。それよりも、気持ちを切り替えて、スッキリして、新しい恋を見つけて、幸せになった方がいい。」

「.......。」

「だから、もう思い出したくない。」

「.......そうだな。」


話したのは、全部本当のこと。

ここ何か月、そう思って前向きに生きて来た。


そして、今の職場と巡り会い、新しい恋を見つけた。

叶わなくてもいいって思えるほど、大好きな人に出会えた。


だから、このささやかな幸せの邪魔をされたくない。

あの忌まわしい過去とはもう関わりたくない。


しばらく心の中に封印していたことだし、この話をしていると、どうしても感情が高ぶる。

当時への複雑な思いと、今の抱えきれないいろんなドキドキが混ざり合って、もう訳がわからなくなる。


そこへ酔いも手伝うから、結局、またウルウルして来てしまう。

今日の私って、面倒くさい女。

せっかくのチャンスなのに、これじゃ、嫌われちゃうかな。
< 62 / 148 >

この作品をシェア

pagetop