今しかない、この瞬間を
「えらいな、お前。いつもニコニコしてるから、全然わかんなかった。」

「.......え?」

「そんな辛い過去があるのに、クサらないで、よく頑張ったよな。」

「そう、かな.......?」


ベットの音がギシりと鳴って、彼がまた少し近付いたのがわかった。

その音に反応してピクっとなった瞬間、彼の腕が私の肩を抱いた。


「泣きたかったら、泣いてもいいよ。今日は、そばにいるから。」

「いっ、いいよ。」

「バ〜カ。ずっと我慢してたら、疲れちゃうだろ? 」

「でも.......。」

「いいの。一人でそんな頑張んなよ。」

「.......。」


肩を抱いていた彼の手が、ゆっくりと首筋を伝って行き、私の頭を抱えこんだ。

そしてそのまま、彼の肩に頭がちょこんと乗るように抱き寄せられた。


なっ、何なの? それ!?

ちょっと待って。もう無理!!

頭が真っ白になって、自分が泣いてる理由すらわからなくなって、それでも、後から後から、涙がジワっとこみあげて来る。


だって、ズルいよ。

いつもそうやって、自分のペースで、突然、優しくするんだもん。


あんまり勘違いさせないでよ。

どうせ、他の女の子にもそうしてるくせに。


急にドキドキさせるのはやめてよ。

こんなことされたら、どんどん好きになっちゃうじゃん.......


僻んでもどうにもならないってわかってるのに、胸が苦しくて苦しくてたまらない。

これじゃ、諦めたくても諦められないよ。

いつまで経っても、私の中の「好き」は治まってくれそうにない。
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