今しかない、この瞬間を
「何かさ、心細い時とか、寂しい時とか、不安になってる時とかって、誰かに触れてたり、抱きしめられたりするとホッとしない?」

「.......。」

「そうすると、大丈夫って思えるっていうか、落ち着くっていうか.......。」

「それ、わかる。そうかもしれない。」


安心したように笑顔を見せた彼は、出会った時と同じ、内から滲み出るような温かな優しさを纏っていた。

やっぱり間違いない。

素顔の彼はこっちの方だ。

真っすぐで、一生懸命で、うわべだけじゃなくて、本気で心配してくれている。

普段はチャラチャラしてても、言ってる内容が薄っぺらでも、本当は根っから優しくて、思いやりのある人なんだと思う。


「さっきさ、お前、この前と同じ顔してた。」

「.......え?」

「痴漢に遭って、震えてた時と同じ顔。」

「.......。」

「あの時さ、その顔見て、こいつのこと、助けてやらなきゃ、守ってやらなきゃって思ったら、無意識に抱きしめてた。よく考えたら、初対面なのに、我ながら、すげー勇気あるよな。」

「そう、かも。」

「でも、その後の笑顔を見て、ホッとした。守ってやれて良かったって、心から思った。」

「.......。」

「だから、今日も、待ってる。いつものニコニコしてるお前に戻るまで。」

「.......どうして?」

「え?」

「どうして、そんなに優しくしてくれるの?」

「さぁ、どうしてだろ? わかんないけど、そうしたいから?」

「.......。」

「それだけじゃ、ダメ?」

「........ダメじゃないけど。」
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