今しかない、この瞬間を
何にも見えなくなるくらい、勝手に涙が溢れて来る。

この涙は全部、彼のためだけに流している涙に間違いないと思う。


だって、こんなの切な過ぎるよ。

思いが届かないなら諦めようって決めたばかりなのに、どうしてそんなに優しくするの.......


「好きな人」がいるなら、私なんか守ってくれなくていいのに。

このまま、こんな風にそばにいてくれたら、ますます勘違いしてしまう。

好きで好きで、どうにもならなくなるに決まってる。


「言っとくけど、こんなことするのは、お前にだけだから。」

「.......。」

「嘘じゃない。そこ、誤解すんなよ。」

「.......。」


そんなの嘘でしょ。

これ以上、追い打ちをかけるのはやめてよ.......


そう思いつつも、嬉しくて、心が震えてるのがわかる。

気持ちをごまかすことなんて、もうできない。

苦しむことはわかっていても、今以上、好きにならずにはいられない。


あっと言う間に涙でグチャグチャになった私を、今度は彼の両腕が包み込む。

いろんな思いが押し寄せて、余計に涙が止められなくなる。


私の心を温めようとしてくれてるのはわかるけど、今となっては、それも逆効果にしかならない。

そうされることで、今の私はより傷つく。

深い深い嫉妬に苦しむことになる。


だって、私は朱美さんには勝てないから。

守ってはもらえても、「好きな人」にはなれない。


あの日、二人の幸せそうな様子を見て、私は理解してしまっている。

この二人の間には、私なんかが簡単に割り込むことができない特別な何かがあるということを。
< 65 / 148 >

この作品をシェア

pagetop