今しかない、この瞬間を
彼は私が泣いている理由をわかっていない。

涙の原因は全部あなたのせい。

言いたいけど、言えないから苦しい。


余計に切なくなるのはわかってるけど、こうしてもっと彼に甘えていたい。

このまま時間が止まっちゃえば、彼はずっと私のものなのに.......


そう思ったら我慢ができなくなって、ふと言葉がこぼれた。

どうしても気になる、どうしても聞きたかった質問が。


「ねぇ、上山コーチは、好きな人がいるんでしょ?」

「.......え?」

「なのに、こんなことしていいの? その人は、コーチの気持ちを知ってるんでしょ?」

「あぁ、う~ん、どうだろ?」

「え? 知らない、の?」

「知ってるのかもしれないし、知らないのかも知れない。」


.......どういう意味?

この前の二人は、とても幸せそうに見えた。

なのに、どうして?


「ちゃんと『付き合っている』とは言えないかな。彼女は、俺のこと、どう思ってるのかわからないけど、多分、愛してはいない。」

「.......。」

「俺自身も、彼女のことは好きだけど、愛してるのかって聞かれたら、正直、よくわからない。」

「.......。」

「でも、離れられないっていうか、彼女の代わりはいないっていうか、一緒にいると、お互いにすごく安心する。だから、どこまで続くのかわかんない関係だけど、今は、その人のそばにいたいって思ってる。」

「........そう、なの?」

「変だって言いたんだろ?」

「ううん、そんなことない。」

「いや、変だろ。自分でもわかってる。」

「.......。」

「だから、今まで誰にも言ってなかったんだけど、お前が相手だと、つい話しちゃうんだよな。不思議だね。なんでだろう?」

「さ、さぁ........。」
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