今しかない、この瞬間を
大学時代の俺は、人生に夢とか希望とか、そんな明るいイメージを持っていなかった。

今、考えると、ちょっと遅れた反抗期みたいなもんだったのかな?

求めたところで永遠に続く「幸せ」なんてないって悟っちゃった分、何事にも本気になれないっていうか、どうでもいいっていうか。


だから、別に「職業なんて何でも構わない」くらいに考えていた。

だったら、渡りに船って奴じゃね?

就活するのも面倒だし、サッカーが仕事になっちゃうなら、それはそれで楽しいのかもしれない。


その程度の申し訳ないくらい低い志しか持ち合わせていなかったけど、卒業後、とりあえずプロの選手になってみた。

だけど、チームは俺が入る直前にJ2に降格しちゃったし、思っていたより収入も良くない。

チーム自体が注目されないから、頑張ったところで世間に評価されることもない。


まぁ、こんなもんだろう。

微妙なヤル気しかない俺にはピッタリだ。

どうせ一生できる職業じゃないし、適当な年齢になったら引退すればいい。


そのくらいにしか思ってないんだから、思うように活躍できる訳がない。

チームも強くないし、何よりプロはそんなに甘くない。

このままじゃ、さすがにヤバいのかな。

つーか、俺がプロの選手やってる意味って、あるのかな.......


そんなことを思い始めたある日、俺の将来を左右する大事故は起こった。

練習終わりのグランド脇の駐車場で、俺は転倒してすごいスピードで地面を滑って来た大型バイクに衝突した。


マスコミが急ぎで出したバイク便か何かだったんだろう。

乗っていた奴は、腰の骨を折って、何か月も入院する大怪我。

俺は足を複雑骨折して、復帰が危ぶまれる状態。

唯一の救いと言えば、俺が咄嗟に庇ったサポーターの男の子が無傷で済んだことくらいだ。
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