今しかない、この瞬間を
そこからはしばらく、誘われるまま合コンに行って、すり寄って来た女の子と手当たり次第、遊んでいた。

寮暮らしの束縛から解放され、好きなように時間を使えるし、もちろん性欲も満たされる。

誰かに触れているとホッとするし、人肌の温もりがあれば、とりあえず寂しくない。


だけど、楽しいフリをしていても、本当はそんなに楽しくない。

意外と早く、俺はそれに気付いてしまった。


俺が心を開いていないからなのか、どの子のことも好きにはなれないし、寂しさが消えるのもその場だけ。

いつもで経っても、心の中が空洞になったままで、埋まってくれる感じがしない。


だんだん、虚しくなって来て、実りのない合コンに参加するのもかったるくなった。

そろそろ本気になって、身近で恋人探しでもした方がいいのかな.......


そんなことを考え始めていた、ある日のことだった。

スクールのコートで、幼児用のボールの準備をしていると、珍しく陽成が一人で階段を上がって来た。


「あれ? 今日はママいないの?」

「うん。車で帰っちゃった。後で迎えに来るから、頑張ってねって。」

「そっか。じゃ、頑張ろう。」

「うん!!」


他の母親にもそういうことはよくあるし、その時は陽成の言うことを特に気にしていなかった。

ところが、バス通学の子たちが帰ってしまった後も、陽成の母親が迎えに来ない。


心細そうな陽成が気にかかるものの、もう次の時間帯の小学生たちが来始めているし、ここで俺が抜けることはできない。

加納さんに頼んで、家に電話もかけてもらったけど、何度かけても母親は電話に出てくれないらしい。


仕方がないので、次の一時間、陽成をコートサイドで待たせておいた。

でも、結局、連絡はつかないままだし、限界が来た陽成は目に涙を浮かべている。

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