今しかない、この瞬間を
どうすればいいんだ?

これじゃ可哀想だし、何とかならないかな.......


途方にくれ、陽成と手を繋いでフロントに降りて行くと、ちょうど田澤さんが通りかかった。

相談してみると、田澤さんからナイスな提案が出された。


「お前、次の時間、入ってないだろ?」

「あ、はい。」

「この子の家、近いんなら、俺の車、貸してやるから、様子見て来る?」

「いいんですか?」

「うん。じゃ、頼むわ。母親がいなかったら、また次の手、考えるから。ぶつけて来んなよ。」

「はい。できるだけ.......。」


当時の俺はまだ新米で、今とは違い、日によって、受け持っているクラスの数にバラつきがあった。

その日は運良く、そこからちょうど二時間、身体が空いていた。


念のため、フロントで住所を調べてもらい、陽成の怪しい記憶をナビにして、すぐ出発した。

車の運転なんて久しぶりだからビクビクするし、陽成の母親がいなかった場合のことを考えると、気持ちも焦って来る。


だからって、泣きながら待っている子供を放っておけないし、何よりこいつが気の毒だ。

今までこんなことはなかったし、何か理由があるんだろうけど.......


いなかったらどうしようと思いながら、えらく立派なタワーマンションのロビーで部屋番号を押した。

だけど、中からは何の反応も無くて、さすがにヤバいんじゃないかと思い始めた。


でも、諦めて陽成を連れて戻ろうかと思った瞬間、エントランスに入って来た同じマンションの住民らしき人が、オートロックを解除した。

その人に付いて陽成はダッシュで走り出し、中に入ってさっさとエレベーターのボタンを押している。

オートロックの扉が閉まる前にこっちに来いと手招きしているから、言われるままに付いて行くしかない。
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