今しかない、この瞬間を
彼女をおぶってリビングまで行き、白い革張りのソファの上に寝かせた。

ちょっと触れただけで身体が熱いとわかるのは、かなりの高熱があるからなのだろう。

体調が悪くて寝ていたところに、突然起き上がったから貧血を起こしたとか?

細くて華奢な女性だから、体力も無さそうだし.......


「熱、あるんですよね?」

「はい。だから、陽成を送った後、戻って休んでたんだけど、寝ちゃったみたいで.....。」

「大丈夫ですか? 病院行った方がいいんじゃないですか?」

「うん。でも、今すぐは行けなさそうだから、少し休んでから考えます。」


彼女と話している間に、どこからか陽成がブランケットとミネラルウォーターの入ったペットボトルを持って来た。

さっきまで泣いていたのが嘘みたいにキリっとした表情になっていて、普段の甘ったれたイメージからは想像がつかないほどしっかりしている様子に、思わず感心してしまう。


「陽成、ありがとう。」

「うん。ママ、ごめんね、僕がサッカー行くって言ったから。」

「ううん、いいのよ。」

「早く元気になってね。」


親子の微笑ましい姿に、ちょっと感動する。

心配だけど、部外者の俺が、これ以上、介入することもないか.......


「陽成、パパが帰って来るまで、ママのお世話できる?」

「パパは帰って来ないよ。」

「え?」

「たまにしか来ない。」

「.......。」


もしかして、俺、マズいこと聞いちゃったのかな?

でも、ってことは、この親子はこんな豪華なマンションに二人きりで住んでるっていうのか?


「あ、気にしないで下さい。もう大丈夫だから。」

「あっ、はい。」

「いろいろお世話かけちゃって、ほんとにごめんなさい。ありがとうございました。」

「あぁ、いえ。」
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