今しかない、この瞬間を
彼女は具合が悪いのに、ソアァの中から、頑張って笑顔を作って見送ってくれた。

それ以上は聞いちゃ行けないと思って、その場を離れたけど、二人のことがどうしても気にかかってしまう。

どういう状況なのかわからないけど、病気の女性と子供を二人きりで置いて来ちゃって良かったのかな.......


何となくスッキリしない気持ちのまま、数日が過ぎた。

その日はスクールが無い日だったから、友達の誕生日プレゼントを探そうと思って、一人でブラブラしていた。


大きなショッピングモールを抜け、ふと視線を上げると、モールと繋がっているホテルのテラスに、今から飛び降りちゃうんじゃないかと思うくらい、暗い表情でジッと下を見つめている女性がいる。

良く見ると、手すりを掴んでいる横顔には見覚えがある。

待てよ、あれはもしかして、陽成の母親じゃないのか.......?


まさかそんなバカな真似はしないだろうけど、思い詰めた様子に、何だか怖くなった。

間違いでも何でもいいから、とりあえず声をかけようと、咄嗟に思った。

急いでエスカレーターをかけ上って、そっと肩を叩くと、振り向いた彼女は、目に涙を浮かべていた。


「大丈夫、ですか?」

「え?、あ、やだ。どうして、コーチ、こんなところで.......。」

「あっ、えっと、買い物してたら、何か思いつめた感じで、下の方見てたから。」

「.......飛び降りると思った?」

「いや、そうではないけど.......。」

「大丈夫。そんなことしない。でも、上山コーチって、優しいのね。私、また助けられちゃった。」


彼女はそう言うと、泣き笑いみたいな笑顔を見せた。

それはとても切ない笑顔に見えて、胸の奥がギュッと痛くなった。
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