今しかない、この瞬間を
「あ、あの、もし少し時間あるようなら、どっかでお茶しませんか?」

「.......え?」

「あぁ、じゃなかったら、そこにある遊園地でバ~っと発散するとか?」

「.......うふふふふふ。」

「あれ? 俺、何か変なこと言っちゃいました?」

「ううん。ありがとう。じゃあ、お言葉に甘えて、そうしようかな。」


一人にしておいちゃ行けない気がして、何だか放っておけなくて、後先も考えず、思い付きで言ってしまった俺の間抜けな提案に、彼女はニッコリ笑って応えてくれた。

彼女から漂う寂しげで危ういオーラの正体が俺にはわからない。

でも、この前の頼りなげな様子を見てしまったのもあり、その時、俺は何故か、今、この瞬間の彼女を支えてあげたいと強く思った。


陽成が幼稚園から帰って来るまでの短い時間だけだったから、ジェットコースターとコーヒーカップと観覧車にしか乗れなかったけど、終始、彼女は楽しそうにしていた。

だけど、最後に乗った観覧車の中で、ポロっと本音を漏らした。


「今日は本当にありがとう。」

「ううん、今日は俺も楽しかったし。」

「こんなに誰かに優しくされたの久しぶりだから、感動しちゃった。」

「そう?こんなことで良ければ、いつでも。」

「私ね、未婚の母なの。」

「.......え?」

「だから、いつも陽成と二人きりだし、何かあっても堂々と助けてって言いずらいし、頑張ってるのに誰にもほめてもらえないから、時々、心が折れそうになる。」

「.......。」

「さっきも何か月かぶりに陽成の父親に会って来たんだけど、冷たくあしらわれて、私って何なんだろうって自信なくしちゃって.......。」

「.......。」
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