今しかない、この瞬間を
知り合いではあるけど、よくは知らない女性、しかも、彼女は俺よりだいぶ年上のはずだ。

なのに、ドキドキもしなければ、妙に緊張したりすることもない。

俺の無茶な誘いに彼女が乗ってくれた後からは、自分でも驚くくらい、穏やかな気持ちでいる。


こんなことって、あり得るのかな。

どうしてそう感じるんだろう。

思えば、思うほど、彼女への関心が高まって行く。


と同時に、もう一つ、新たな気持ちが湧いて来る。

俺が彼女にしてあげられることって、何だろう。

彼女の寂しさを軽くするために、俺はどうすればいいんだろう.......


思いつくまま、とりあえず、車中で俺の生い立ちについてちょこっと話してみた。

陽成と完全に同じ心境にまではなれないけど、父親が不在で寂しい気持ちなら、俺にもよくわかる。

それが少しでも、彼女の気休めになったらいいなと思ったから。


普段、その手の話をあまり他人にしないのは、過剰に慰められたりするのが嫌だからだ。

それでも頑張って生きて来たことを認めてほしいだけ、ただそばにいて聞いてほしいだけなのに、腫れ物に触るみたいに気の毒がられるのが、大抵のパターン。

悲しみや苦しみを抱えている人に共感することはできても、まったく同じ気持ちになることは不可能なはず。

なのに、わかったふりをされるほど、気持ちが萎えることはない。


そういう意味でも、俺には彼女の反応が心地良かった。

親身になって、表情を変えながら静かに聞いてくれる彼女に、不思議と話している俺の方が癒された。

だから、この人なら俺の心に空いた穴を埋めてくれるんじゃないか、そんな予感がした。


また、会いたいな。

この人と、もっと一緒にいたいな.......
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