今しかない、この瞬間を
そう決断してしまってからの毎日は、今まで以上に楽しくなった。

当たり前のように、彼と一緒に帰って、ご飯を食べたり、飲みに行ったり。

一人暮らし同士だから気楽だし、家がすぐ近くっていう理由があるから、堂々としていられる。

いつも一緒にいて、一番近くで彼の笑顔を見られる、このポジションはやっぱり居心地が良い。


時には、里菜ちゃんと毅くんのカップルと4人で遊ぶこともあったし、彼も前より身近に思ってくれているからなのか、そばにいる時間も長くなった。

おかげで元からあった噂にも拍車がかかり、私たちは本当に付き合っていると思っている人まで現れ始めた。


「彼女」じゃないけど、確実に彼の一番近くにいる。

そう感じられることが、素直に嬉しい。


加えて、あの日、お互いのディープな部分も見せてしまったせいか、少しずつ遠慮もなくなって行った。

気軽にチャイムを押せるようになったし、何となく部屋の行き来も始まった。

今度、私が作ったご飯を食べに来てもらう約束もしたし、一緒に映画を観に行くことだって決まっている。


このポジションに、一見、不満はない。

いつだって、彼のそばにいて、ときめく気持ちで満たされている。


こんな毎日が続くなら、別に「恋人」になれなくてもいいんじゃない?

これだけ長い時間、彼と一緒にいられるなら.......


普段はそう思っていても、時々、心の中で勘違いが始まる時がある。

それはチャラさと親しみが混ざったユルい雰囲気を漂わせながら、彼が何気なく私に触れる時。

恐らく彼は無意識なんだろうけど、会話の途中で、私の肩や頬に手をやったり、頭を撫でたりされると、胸の奥がキュンと痛む気がする。
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