今しかない、この瞬間を
少しは私のことも気にしてくれてるのかな.......

彼の様子を見る限りでは、そう思えなくもない。

何しろあからさまにそんな態度を見せたのは初めてだから、意地悪かもしれないけど、もっと困らせてみたくなる。


それに、テニスの淵江コーチに、スイミングの森野コーチと言えば、生徒さんにもママさんにも従業員にも、絶大な人気を誇る我がクラブの二大イケメンコーチだ。

その二人のお誘いを、みすみす断るバカなんていないでしょ。

私は今、フリーの状態なんだから、誘いに乗るのは当然だと思う。


他の子の母親が一緒にいることもあるから、彼と朱美さんが、ここで特別に仲睦まじい姿を見せることはない。

だけど、二人が並んでいるところ、会話をするところを見るだけでも、私にとっては大きなダメージだ。


毎週、それを目の当たりにしている私に比べれば、こんなの何でもないことじゃん。

悪いことをしている訳じゃないし、少しくらいは焼きもちを焼いてくれたら嬉しいな。

「友達」の私は、そんなことくらいでしか、彼の心の中に自分が入り込めているかどうか、確認することができないんだから。


朱美さんは、彼とは目を合わさず、黙って陽成くんに着替えをさせている。

あまり笑顔が見られないのは、さっきの私の悪事のせいかもしれない。


私がこの場にいるのもあるんだろうけど、彼も真顔の朱美さんには話しかけにくいのか、バスで帰る子供たちにちょっかいを出しながら、帰り支度を手伝ってくれている。

おかげでバスの時間には余裕を持って送り届けられたけど、何となく後味が悪いっていうか、空気が重くなっちゃったっていうか.......

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