Different Real
Real 1
父は私が小さい頃に浮気をして出て行ったらしい。
顔も名前も知らないし、会いたいとも思わない。
朝から晩まで働く母と2人で暮らしてきた。
別にさみしくはない。
家族旅行に行ったことだって、家族写真だって無いけれど、それが私の家庭では普通だから。
友だちの話を聞いて少しはいいな、って思うけどがんばってる母の前で「旅行に行きたい!」なんて死んでも言えない。
「紗恵ちゃーん?聞こえてますかー?」
「わっ!」
耳元で聞こえた友だちの声に肩がびくんっと上がった。
いけない、ボーッとしてた!
榎本 紗恵(えのもと さえ)。
つい数週間前から高校生。
数少ない私の友だち、春野 みゆきと同じクラスになれた。
「もう!話ちゃんと聞いてた!?」
「え!?えーっと......ご、ごめん...」
素直に謝るとみゆきは頬いっぱいに空気を入れた。
拗ねちゃった、かわいい...。
「ごめんねー、みゆきちゃーん」
ぱんぱんの頬を人差し指でツンツンといじる。
「まったく!紗恵の隣、また学校来てないねって言ってたの!」
「え、あぁ、そーだね」
隣の席の神尾 恭平くん(かみお きょうへい)は入学式の日に1度来たきり学校に来ていない。
きれいな黒髪がすごく印象的だった。
顔はよく見えなかったけど、クラスの女の子たちが「近寄り難いいけめん」って騒いでた。
なぜ学校に来ないのか、入学から2週間経ったいま、誰もその話をしなくなった。