彼の優しさ
「あのなぁ、俺の店でラブシーン演じてくれるな。」痺れを切らしたのか声を掛けてきて腕の中にいる藍がもぞもぞとしている。
「動かなくて良いよ。」と言って藍の顔を俺の胸に向けた。
「春仁ごめん。明日ちゃんと払いに行くから外に出て良いか?」
「いーよ。恋人出来た祝いだ。タダにしてやんよ。」そう言うと藍は
「そういうのはやだ。」と言った…ここも変わらない。何処か芯が通っていて、自分の決めた事は曲げない。
「うーん…じゃあ、女性目線で新作のケーキとか出来た時、味を見てほしい。それと今回はチャラ、後、祐も甘味が苦手な人用にケーキ作るからそんときに宜しくな」…そうだ、春仁、俗に言う『甘党男子』だもんな。
「分かった。藍も良いか?」そう聞くと藍はコクと頷いた 。
「商談成立、だな。じゃあまた。」と言うとカウンターの方に言ってしまった。
「藍、これからどうしたい?…俺は実家に住んでいて、今実家に行くともれなく母さんと麻美がいる。」
「家に…案内する。こんな顔、誰にも見せられない。」