彼の優しさ
「今、思えば『猫、飼いたい』ぐらいしか藍が言ったおねだりはそれしか思い出せない。ルチルを飼い始めたきっかけも俺の店の店員の飼ってる猫の子どもを引き取った事だったからな。」
「わたし、会社辞める事にする。」…お母さん?
「藍の負担が相当あったのに気付いてなかった。だからこれからはせめて出来る様にならなければいけないわ。」
「……辞めなくてもいいよ。…このまま行けば学校推薦貰えるし、推薦取ってからアルバイトすれば入寮料稼げるし」
「入寮って寮入るの?」お母さんのビックリした声。
「うん。…もう、決めたから。」
周りがシーンっとなった。
わたしからの完全な拒絶。
お母さんたちは言葉が無いみたい。
静まり返った部屋にノックが聞こえた。
「雪奏と…誰だ?知らない…いや、この気配…入院患者の血縁?」ボソボソとした颯斗義兄さんの声。
「アタリ。藍ちゃん、入っても大丈夫かしら?」…?
「あ、はい。どうぞ。」誰が分からないけれど雪奏姉さんの声に答えた。