彼の優しさ
「……えっ」どうして?今、時計を見たら16過ぎ。…普通に考えてまだ仕事中と言っても良い位でむしろ、これから料理の仕込みがあるから忙しくなる筈なのに……。
「ただいま。藍。」廊下から歩いて来たお父さんがそこにいた。
「…お帰りなさい。」……こう言う時の反応が分からない。
「なあ、話さないか?」何を話すの?と目線で言った事が分かったのか
「今の現状に対する理由、だな。」
…今さら、何を言ったって遅いよ。
「藍が自分の気持ちを俺たちの仕事に関する情熱のせいで押し殺してるのは俺たちにも直ぐに分かった。けど、俺たちは藍に比重を置こうとしても直ぐに目の前の仕事に気を取られて藍の事を大事にしてきたつもりでも出来なかった。だから藍の気持ちを知りたくて家に戻れだの、見合い話を出したんだ。…結果はこのざまだったけどな。」…あ、そう。わたしの心は全く動かない。実際に翼ちゃんが見合い相手と紹介されたし、お父さんが言っている事の根拠が全く無い。