彼の優しさ

「何も口出しはさせない。…わたしをここまで追い込んだのは誰?」そう言い残すとキャリーケースにアズサを入れてツマミを捻るタイプの鍵を閉めた。

立ち上がるとルチルがこっちに来た。

「どうしたの?ルチル。」右手の甲を出すとルチルはくんくんと匂いを嗅いでからすり、と体を擦り付けてきた。

「ごめんね…ルチル。元気でね?」そう言うとわたしはアズサが入ってるキャリーケースを持ち上げて玄関へ向かう。

「…待ってくれ!藍!!」歩くのを止めて、背中ごしに話を聞くことにした。

「藍が、望むのなら会社の権利を藍にやる。」

何が言いたいの?

「俺が持っている会社の株をやる。」…そんなの要らない。…わたしの夢は個人経営のお店。逆にそんなの有れば夢は果たせなくなる。

「株なんてわたしの夢に邪魔になるだけ。だから要らない。」そう言ってわたしは廊下に出て、玄関に着くとわたしの靴を履いて(重要な荷物はもう部屋に持ち運んでいるし、要らない物は曜日毎に捨てていたから持ち帰る物と言えばアズサの物とわたしの財布やらスマホやらといった細々としたものぐらい。) 外に出た。
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