もう一度さよならを言うために
電車がゆっくりと動き出す。
「俺は大学院に進学するんだ」
「そうなのか。すげぇな。」
「君はどうするんだ?」
「俺はもう故郷(こっち)に引っ越してるんだよ」
「こっちで就職か?」
「って訳でもない。先月からパチンコ屋でバイトを始めた」
僕は言葉に詰まりそうになったが、続けた。
「野球は?」
「野球はするさ。とりあえずどこのチームに入るかは、わからないけど」
「そうか」
「しかし大学院とはな。驚いたよ」
「何故か就職する気になれなくてな」
「まあ、就職しない俺がどうこう言うことじゃないがな…そうだ、Tとは最近どうなんだ?」
「どうなんだって言われても…ここ二年くらい、会ってないな」
「俺は会ってるぞ」
「そうか」
車窓から雪がちらついているのが見えた。確かに、Tとは会っていない。高校ぐらいから、というかヤツが野球を辞めてから、気が合わなくなった。あまりいい噂の聞かない連中と付き合い始め、いわゆる'不良'になっていったのだ。
「あいつ、野球をやりたがっているんだ」
「えっ?」
「お前らにはわからないかもしれないが、俺は知ってるんだ、辞めた理由もな」
「Tがやりたいと、自分から言ってるのか?」
そんな性格じゃないはずだ。


< 4 / 5 >

この作品をシェア

pagetop