敏腕社長に拾われました。
会社の正門前まで、知った顔に合うことなく到着。
でもまだ気を抜けない。
永田さんのことだ。きっと早くに出社してきていて、どこかで見てるに違いない。
本社棟の方をキョロキョロ見ながら門を通り抜ける。すると誰かに、肩をトントンと叩かれた。
し、しまった。前ばかり気にしすぎて、後ろがノーマークだった! もしかして永田さん!?
ビクッと縮こませた首もとを元に戻しながら、ゆっくり後ろを振り向くと……。
「智乃ちゃん、おっはよ」
今日も朝からメイクバッチリの長坂胡桃が立っていて、ホッと胸をなでおろす。
「長坂さん、おはようございます」
いくら彼女のほうが年下でも、秘書室では先輩。丁寧に挨拶をすると、彼女の後について歩き出す。
「長坂さんなんてかたっ苦しい。胡桃って呼んでくれればいいよ」
長坂さんはそう言うけれど、仲の良い友達でもあるまい、さすがに胡桃とは呼びにくい。
「じゃあ、胡桃ちゃんでいい?」
虎之助も胡桃ちゃんと呼んでいたし私のほうが三つ年上だってことを考慮してそう提案すると、クルッと振り向いた彼女がニッコリと微笑んだ。